米国株市場は先日、未知の領域に踏み込んだ。S&P500の株式リスクプレミアム(ERP)は、米国財務省債などの安全資産に比べて株式市場のリスクを取ることで期待される追加リターンが事実上蒸発し、22年ぶりに0に達した。
これはつまり、現時点では株式などのリスキーな資産を選んだ投資家には、債券などのリスクフリーな資産を選んだ場合と比べて追加報酬が一切ないということを意味している。
ERPは、10年物国債利回りをS&P500の株式利益利回りから引いたものである。
関連リンク: ある経済学者「ビットコイン、2037年までに100万ドルに」
ベテラン経済学者のデイヴィッド・ローゼンバーグ氏は、この傾向についてソーシャルメディアを通じてコメントした。
「この国債利回りの動きを見ても、私たちはもはや株式リスクプレミアムがマイナスに転じるのも後10ベーシスポイントだけである。従って投資家たちは、株式リスクを引き受けるためにお金を支払う覚悟があるのであって、株式リスクを引き受けると支払われるわけではない」と自身のツイッターアカウントで述べた。
株式リスクプレミアムが重要な理由
株式リスクプレミアムは、株式の潜在的なリターンが国債に比べてどれだけリスクが高くなるかを測定するための重要な指標である。
高いERPは、投資家たちが株式リスクのために充分な報酬を受け取っていることを示し、一方で低いERPは報酬が少ないことを示している。
単純に言えば、低いERPというのは、債券に比べて株式がますます魅力を失っていることを示しており、それは債券がより少ないリスクでそれと同等のリターンを提供しているからだ。
マイナスのERPは、市場の不安定さや、ドットコムバブル崩壊の前兆となることがあるが、これはまさにそうした例の一つである。しかし、これは予知の裏づけを取るものではなく、市場は予測不可能であり、ERP以外にも株式パフォーマンスに影響を与える要因は数多く存在する。
投資家は心配する必要があるのか?
株式リスクプレミアムがゼロであると、今後株式投資家は何も見返りを期待できない難しい環境に直面することになるが、過去のデータはこの問題にはもっと複雑な側面があることを示している。
一流の資産運用会社であるアライアンス・バーンスタインによると、低いERPが必ずしも終わりを意味することはない。たとえば1983年から2008年にかけて、ERPはしばしば1%前後であったが、その間S&P500は年率10.2%のリターンを記録している。
アライアンス・バーンスタインは2023年12月のレポートで、「将来の状況は過去のそれと異なるかもしれないし、低いERPは株式にとってハードルを上げている」と前述のように記述している。 「しかし、過去のデータは、株式はリスクの高い環境でもしっかりとしたリターンを提供できると示唆している。」
国債のリスクが低くなったことで、株式が低リスクな代替策としての魅力を失ってしまうかもしれないが、アライアンス・バーンスタインは、株式市場はインフレに対する強力なヘッジとして機能し続けるであろうと強調している。
2%~4%程度の範囲内でのインフレ期間中には、S&P500は四半期ごとに歴史的に2.5%のリターンを提供し、投資家の購買力を保全してきた。このように、債券の利回りが魅力的に見える場合でも、株式のインフレ保護機能は価値のある要素となり得る。
2023年、極めて低いERPであるにもかかわらず、米国株式市場は上昇を続け、この指標の予測力の弱さを物語っている。
株式リスクプレミアムだけに頼らないで
名誉ある評価の専門家であり、ファイナンスの教授であるアスワス・ダモダラン氏は、株式リスクプレミアムや株式利益利回りなどの指標を市場タイミングツールとして単独で使うことについて投資家に警告した。
「株式リスクプレミアムや利益利回りを使って市場のタイミングを取っている場合、過去のリターンの相関係数や決定係数が市場タイミングの利益に簡単に繋がるとは考えないで欲しい」とダモダラン氏は述べた。
ダモダラン氏は、「相関係数や回帰分析が正しいとしても、予測が的中するまでには時間がかかるかもしれないし、あなた(またはあなたがポートフォリオマネージャーであれば、あなたのクライアント)はその間に破綻するかもしれない。」と付け加えた。
結論: 新しい風景が広がっているが、危機とは限らない
株式リスクプレミアムがゼロになったことで、株式投資家は株式リスクを引き受けるためのリターンが実質的に消失してしまう厳しい状況に直面している。
これによって、何かを再考する人も出てくるかもしれないが、株は終わりではない。
過去のデータは、低いERPが必ずしも景気後退を予示するものではなく、株式は高利回りの世界でもしっかりとしたリターンを提供し続けることを示している。
今すぐ読む:
画像提供: Pexels