歴史家で哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、人工知能(AI)革命を無自覚に見過ごす者に対して、アルゴリズムが現実を再構築する前に起きろ、とのメッセージを送った。
出来事ハラリ氏は最近になって来日し、自著『ネクサス』を宣伝する際、AIは単なる技術的転換ではなく、存在的転換であると警告した。
ハラリ氏は日経とのインタビューでこう語っている。「人間にはない何か、AIというものが生まれました。このAIは、私たちよりも言語や数学をもっともよく理解しています」
『混乱の温床』
ハラリ氏は、混乱の温床としてソーシャルメディアを挙げ、人間のふりをしたボットが、フェイクニュース、陰謀論、怒りの投稿をプラットフォームに大量に投下することでエンゲージメントを誘発させようとしていると指摘した。
「見える対策は2つあります。まず、フェイクユーザーを禁止することです」とハラリ氏は述べた。「もしそのボットがAIであると明確に自己申告する条件であれば、人間と話すことを許可しましょう」と彼は語った。彼は、トレンドになっている話題が、ボットの投稿であることに気づかず、それを自然発生的な人気のある話題だと信じることが精神的操作の一貫であると強調した。
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2つ目の防衛策としてハラリ氏が挙げたのは、企業の責任の所在を明確にすることだ。「企業は、企業のアルゴリズムの行動に対して責任を負わなければならない」と彼は語った。彼はフリースピーチのよくある弁明を退け、「問題は人間が言っていることではありません。問題はアルゴリズムの決定です」と語った。
ハラリ氏の政治観
ハラリ氏は政治に関しても率直に語った。彼は「民主主義は、自己修正のメカニズムに全てがかかっています。問題なのは、もし政権を返さない人物に権力を与えた場合、どうなるのかということです」と語った。彼はトランプ大統領の世界観を、「強い者が支配し、弱い者は強い者に服従する」と表現し、このような考え方が世界の軍備拡張を助長し、協力を揺るがすリスクがあると警告した。
ハラリ氏は、AIによる独占にも警告を発している。「2つの国、または数カ国がAI技術を独占するようなことがあれば、非常に危険でしょう」と彼は述べた。特に日本、インド、ブラジル、EUなどの国々が、アメリカと中国によるAI独占を防ぐために協力を強化すべきだと彼は強調した。
しかし、ハラリ氏は警告の裏には希望も見出している。彼は「AIは新しい薬を発明することもできますし、気候変動の対策にもなります」と語った。しかし彼は、AIの予測不能性はそれを「異星の知性」として捉えるべきだと警告し、現在の問題は「AIがどのような新しいアイデアを発明し、どのような決断を下すかを予測することはできない」と語った。
学術界や科学界からの批判
ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書『サピエンス全史』は、その推測的なアプローチと厳格な根拠の不足から、科学者や学者から批判を浴びている。人類学者のクリストファー・ロバート・ハルパイク氏は、ハラリ氏の本に関してこう語っている。「この本は、真剣な知見への貢献が何もない」と、そして彼は、この本を物語のようなエンターテイメントとして、あるいは本質的な分析ではなく、感覚的な推測に満ちたものとして捉えた。同様に、チャールズ・C・マン氏もハラリ氏の主張を批判し、ハラリ氏の主張は根拠がなく過度に単純化されていると述べ、それを「大学寮の雑談」と例えた。
さらに、ハラリ氏の宗教と人間の認識に関する進化的説明が簡略化されていると批判された。ハラリ氏の「偶然の遺伝的突然変異」や自然主義的な仮定に依存する姿勢は、より深い宗教的および社会的複雑さを説明しきれていない。このような批判は、ハラリ氏の本が科学的厳密さよりも魅力的な物語の方に重きを置いている傾向があることを浮き彫りにしている。
写真提供:Shutterstock
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