
規制と関税でプレッシャー、新規製品の開発も視野
要点
- 今年第1四半期、中国の大手電子タバコメーカー「スモーア(Smoore)」()の利益が、前年同期比43.4%減の1億9200万元となり、同社製の電子タバコ製品が複数の側面でプレッシャーを受けた
- 中国製の使い捨て電子タバコデバイスに関税を追加するようワシントンへロビー活動を行うたばこ大手
電子タバコ業界は従来的でありながら革新的でもあり、膨大な市場を提供している一方で、従来の喫煙に類似していることから常に規制当局の監視下に置かれているという矛盾がある。電子タバコ製品メーカーは、通常のたばこ製品とも競合する立場にあり、新しいグループに影響を与える政策は時として不分明で混乱してしまうことがある。
多くの電子タバコ企業が多面からのプレッシャーを感じており、その中には世界のアトマイゼーション技術製品のリーダーであるスモーア・インターナショナル・ホールディングス(Smoore International Holdings Ltd.)(香港証券取引所コード:6969)も含まれる。同社は、自社の利益が前年同期比43.4%減となり、第1四半期に消え失せたことを示す最新の決算を発表した。
同社の利益の消失の大部分は、管理、流通、販売、R&Dなどの各分野への大幅な支出増加が原因とされる。
スモーアの収益は、世界のたばこ大手へ販売している電子タバコ製品の収益が中心である。その製品は主に、アトマイザ、スモークボム、使い捨て電子タバコ、加熱式非燃焼製品など、ほとんどが電子タバコデバイスとその部品を指す。同社は自社ブランドの事業を展開する一方、アトマイゼーション技術を美容製品や医療治療に応用するためのR&Dにも投資している。
同社は第1四半期の売上高データを提供していないが、2024年の売上高は前年比5.3%増の118億元(約1830億ドル)となり、2年連続での利益の減少となる13億元(約203億ドル)となる。昨年は同社の売上の79%を占める93.2億元をビジネスクライアントから獲得し、2023年よりわずかに減少した。自社ブランド事業からの収益は34%増の24.8億元(約387億ドル)となり、売上高の残りの21%を占めている。同社は、昨年に自社ブランドの「MOYAL」美容アトマイゼーションブランドを中国で立ち上げたことを大きな進出と評価している。
利益の減少にも関わらず、スモーアの株価は昨年好調であり、2024年初めの6.50香港ドルから年末の14.12香港ドルへと2倍以上に急騰した。現在もその一部は維持しており、11香港ドルを上回る水準で取引され続けている。
中国の電子タバコ市場は、急成長の後に数年間にわたって低迷している状況が続いている。電子タバコが中国のたばこ専売法の対象になったのは2022年のことで、若者に人気のあるフレーバーエレクトロニックタバコが禁止となり、すべての製品に対する新しいライセンスの取得が義務付けられた。これらの変更によって、スモーアは海外に焦点を移すことを余儀なくされ、昨年の海外収益は同社の総収益の90%以上を占めた。
最近では海外規制の面で好調な動きが見られている。世界最大の電子タバコ市場である米国は昨年、メンソールフレーバー製品の正式な承認を行った。また大統領選挙においてトランプ前大統領が約束したこともあり、新たな緩和策への期待が高まった。さらには、昨年はアメリカ食品医薬品局(FDA)が未認証の電子タバコに対する取り締まりを強化する一方で、合法的な企業の売上を支えた。この政策はスモーアを筆頭とする合法的な電子タバコ企業にとっては売上の補完となった。
高配当株式インセンティブ制度
創業者および会長のチェン・ジーピンのための株式インセンティブ制度も、株価を支えている可能性がある。同社は、特定の条件を満たすことができればチェンに最大6100万株を付与するとしている。このプランの条件は、2025年から2030年の間に15日間連続して同社の平均時価総額が3000億香港ドルに達した場合には30%、4000億香港ドルに達した場合には60%、そして5000億香港ドルに達した場合には全ての6100万株がチェンに付与されるというもの。
同社の時価総額は2021年1月のピーク時に5500億香港ドルに達し、その後急落して現在の63億香港ドルとなっている。 このオプションの制度により、チェンは自社の株価を密に監視することになり、その結果として過去に達した高値を再び達成し、株式インセンティブ制度の一部またはすべてを取得することを目指すことになる。
昨年、収益成長ならびに比較的安定した状況に回帰したものの、政府の常に変動する規制ポリシーおよび地政学的なリスクが、同社を取り巻いている。その中には、スモーアに対する脅威となる可能性がある。大きな脅威の1つとしては、英アメリカン・タバコ(BAT)が挙げられる。同社はスモーアの大口顧客であり、英アメリカン・タバコはトランプ政権に対し、中国からの電子タバコデバイスの輸入禁止を含む、違法な電子タバコに対する取り締まりを求めるロビー活動を行っているとロイター通信が報じている。
中国製の使い捨て電子タバコに対する米国の輸入禁止
英アメリカン・タバコは、自社の合法製品が市場に出るまでに数年を要し、その間に違法製品が市場に大きなシェアを獲得してしまうと主張している。米国で年間約129.3億ドル相当の売上がある電子タバコ市場のうち、中国製の未認証使い捨て電子タバコが約70%を占めており、合法製品に対する深刻な影響をもたらしている。英アメリカン・タバコは、これに対処するため、中国製の使い捨て電子タバコの輸入全般を米国から禁止し、その他の中国製の電子タバコおよび喫煙製品に対する追加関税を検討するようワシントンに求めている。
一方で、中国から米国への製品輸送に対しては、新たに導入された米国の関税ならびに中国からの小荷物輸送に対する無税措置の取り消しも、中国製電子タバコの輸出に対してプレッシャーをかけている。
とはいえ、スモーアには、より多くの論争をかわす新製品の開発を行うための新たな進路を見つけ出す機会がまだ残されている。その最たる例が、スモーアのチェンにとって新たな可能性を秘めた、ますます人気を博している加熱非燃焼(HNB)製品である。 また、先にも触れた通り、スモーアは美容製品および医療機器を開発するためのアトマイゼーション技術への出資を拡大している。
最近の株価上昇の後、スモーアの株式は現在、52倍の高い株価収益率(P / E比)で取引されている。これは、RLXテクノロジー(RLX.US)の30倍、およびたばこ業界全体の平均11倍よりも高い数字である。 このように株価が過大評価されていると、投資家は株価が下落するリスクがあることを認識しておくべきだ。このリスクは株価だけでなく、チェンの株式インセンティブ制度においても悪影響を与える可能性がありそうだ。